28、 絶景の夜釣り 有明

東京湾と名乗っているのに千葉ばっかりで京葉じゃないかとおしかりを受けるかもしれない。

今回は湾岸だ。それもお台場。

私にとって荒川より西、多摩川より東は未知の領域だった。どうして行くことをためらっていたかといえば、釣るより以前に、まず、そんなところで釣った魚が 食べられるのかという前提条件をクリアしなければならなかったからだ。だが、それはあっさりとクリアされた。インターネットの掲示板に若洲海浜公園や木場、お台場、京浜運河等での釣果が載っており、しかもおいしく食べたなどという感想も述べられていた。

湾奥で一番の釣り場は若洲海浜公園だ。駐車場もあるし、釣り公園として整備されている。だが、もう10年以上前になるが若洲海浜公園には行ったことがある。その時はここが海だとは信じられないくらい汚れていた。そのことが記憶に残っているので、パスした。

そこで、まずは、一番行きやすい木場に行ってみることにした。あそこだったら、駐車もしやすいだろう。木場の一番奥にあたる南千石橋の橋の上に車を止めた。 橋の上には既に数名の釣り人がいた。車を降りて橋の上から川を眺めると、驚いたことにそこには数十人の釣り人が盛んに竿をふっている。それも橋の左右、両岸にびっしりだ。シーバス狙いのアングラーだ。スズキはゲームフィッシュのアングラーにとっては特別な魚だ。今日の日本では海水のシーバス(セイゴ・フッコ・スズキ)、淡水のバスそしてヘラブナがゲームフィッシュの王様だろう。私も夜釣りをしているとこのシーバスアングラーとよく出くわすが、こんなにたくさんのアングラーを目の当たりにするのは初めてだった。

理由はすぐにわかった。水面を見ると小さな魚が盛んに水面をはねている。その数は無限大といってもいいほどだ。釣り用語でベイトというが、餌になる小魚だ。多分イワシだろう。ベイトを追ってスズキがこの運河に入り込んでいるのだろう。橋の上から狙うのも考えたが、船橋に行けば釣れるのはわかっていたので、やめることにした。今日の狙いはメバルなどの根魚だ。

一人だけ橋の上から餌釣りをしている人がいたので情報を仕入れることにした。20cm超のメバルが有明で釣れているらしい。少し怪しいとは思ったが有明に向かうことにした。

有明に着いたが、さすがにここはダメだろうと思った。パレットタウンに東京ビッグサイト、人がひしめいている。釣りにはあまりにも場違いだ。

隣のフェリー埠頭はどうかと思い、車を乗り入れたが、どうも一般車は入ること自体が禁止されているようだ。だが、検問があったが誰が止めるわけでもない。不思議なことだが埠頭の中に公園があり、小学生の野球チームが練習をしていた。一般者の入場を禁止している場所に公園があるのはどういうことなのだろう?この公園は誰のための公園なのか?

トラブルは面倒なので、早々に埠頭を退散して、次に向かったのは有明の隣の青海にある暁ふ頭海浜公園だ。東京港にはフェリー埠頭と同様に一般人の入場を禁止に した中央防波堤という人工島が存在する。お台場からその中央防波堤に向かう海底トンネルの手前にあるのがこの暁ふ頭海浜公園だ。私はたまたまその公園に行ったことがあって、その時その場所が釣り場になっているのを覚えていた。無料の駐車場もある。

暁公園には結構な数の釣り人がすでにいた。釣果を聞くと芳しくないらしい。が、目の前でフッコをあげているアングラーがいた。とりあえず、糸をたれてみることにした。ここはだめだった。水深が浅すぎる。干潮とはいえ、手前では深さは30cmくらいしかない。10m投げても水深は1mほどだった。これでは釣りにならない。10分ほどで引き上げることにした。

もう1度地図を見て考えた。よく見るとビッグサイト裏側にも道が通っているのがわかった。立ち入り禁止かもしれないが行ってみることにした。これが正解だった。

ちょうどビッグサイトの裏手に2車線の道路が通っていてそこが行き止まりになっている。行き止まりの先が公園で、波止場のようになっていた。

車を置いて早速釣り始めた。確か昔はここにフェリーが止まっていたと記憶している。水深もあるはずだ。案の定10m以上の深さがあった。

まだ日も暮れていなかったが、メバル狙いのミャク釣りの人が何人か糸をたれていた。釣果を聞くとダメだと言っていた。しかし、私にはここには何かいるはずだという確信があった。時間がまだちょっと早いだけではないかと思い、日が暮れるのを待ってからやり始めようと準備をして待っていた。

2本を電気ウキに、1本を手元で秘密兵器「餌ジグ」にして釣り始めた。ちょうど日が暮れはじめる時間だった。

有明東ふ頭公園からの夜景

ところが30分ほど過ぎても一向にアタリがない。電気ウキも餌ジグも何回かタナを変え、岸からの距離を変えたりしたがダメだった。この場所がまずいのかと思い、電気ウキはそのままにして、餌ジグを持って移動を始めた。糸を長めに出してそのまま海面を引いて歩いた。

釣りながら見るここの夜景はまさしく絶景だ。魚は釣れていないが、こんな所を歩いているだけでいい気分になってくる。場所が場所だけにまわりには数組のカップルがベンチで愛を語り合っている。カップル側から見れば、目の前をおっさんが釣竿を抱えて左右に何回も行き来しているというまことに妙な光景だったろう。普通、釣りといえば場所は固定してそこから投げるのだから。いったい何をやっているのかと思っていたのではないか。だが、カップルたちはそのあともっと驚くことになるのだ。

十回ほどカップルの目の前を往復しただろうか、ゴツゴツというメバルらしいアタリが現れた。ただ、ヒットまでには至らない。このようなアタリがさらに1回あり、さらに数回の往復後、3回目にグググというちょっと違うアタリがあった。が、そのまま止まってしまい、動かなくなってしまった。私はてっ きり根掛かりしたのだと思い、手で糸をたぐり始めた。するとまたしてもグググっというアタリになり、良型の魚があがってきた。25cm以上はあるだろう。よく見るとメバルではなく、ムラソイだった。

こんなに大きなムラソイを見るのは初めてだ。ムラソイはカサゴに似た根魚だ。水深が深い場所ではカサゴが主流だが、ここ東京湾内ではムラソイが多い。これもおいしい魚だ。刺身、から揚げ、煮付け、味噌汁など、なんでもうまい。有明でこんな魚が釣れるなんて感激だった。周りのカップルたちもこちらを見て感嘆の声をあげている。まさかこんなところでこんな魚が釣れるとは思ってもみなかったのだろう。

お台場での釣果 左からフッコ、ムラソイ

その後も同じように餌ジグでただ引きして歩いた。結構アタリは出るのだがなかなかヒットしない。1時間ほど、公園の南北を往復して歩いただろうか、元の場所から300mほど離れた場所でついに2回目のヒットをした。だが、どうも様子がおかしい。この引きはメバルやムラソイ、アイナメの引きではない。もっとずっと強いのだ。海面を見るとバシャっと跳ねる音がした。フッコだ。間違いない。40cmは超えている。道糸は3号だった。ジグは道糸に直接つけているので切られることはないだろう。だが、タモは置いてきている。引っこ抜かなければならない。取り込むとき暴れられたら切られる可能性がある。魚の体力を消耗させなければ。。。

2,3分やり取りして、十分弱ったの見計らった私は直接糸をつかんで、船釣りのように垂直に魚を引き上げた。成功だった。案の定40cmくらいのフッコだった。

その後もメバルらしきアタリが何度かと、60cmを超えるフッコのヒットがあった。このフッコは激しエラ洗いをして、ハリを折り曲げて逃げて行った。まさしく「逃した魚は大きい」の典型だ。

有明の海の魚影は思いもよらず濃かった。次はあの逃がしたサイズを釣ってみたい。

ポイント

今回は有明東ふ頭公園。付近の有明南ふ頭公園は大型船が停泊するふ頭の隣なので期待できる。 お台場でのスズキの魚影は思いのほか濃い。いつ行っても誰かが70cm以上のスズキクラスを上げている。また、秋から春にかけてのメバルの夜釣りでは一級のポイントとして有名だ。

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