12、キスしてほしい

船橋はその年の6月に入っても不調が続いていた。イワシ釣りには時期が遅く、サッパ釣りには時期が早い。行徳のハゼはまだまだだ。ハゼは7月には入らないと小さすぎてハリに掛からない。

こんな時は長浦に行こう。先日は「アナゴンダ」で失敗してしまったが、あそこにはまだ何か秘めた宝が眠っているような気がしていた。

早速出かけた。その日は私にしては珍しく朝9時に出発した。ところが行楽客で車がいっぱい。1時間ほど渋滞にはまり、到着まで2時間以上もかかってしまった。いつもは11時過ぎの出発が普通で、遅い時には3時出発という時もある。あまりに出発時間が遅すぎて行楽客の流れとは逆で、渋滞に巻き込まれることはなかったのだろう。

車の運転だけでで疲れてしまったが、気を取り直して釣り始めた。

まず、ポイント探しだ。前回は大型船が着く埠頭の真ん中あたりでやったが駄目だったにので、今回は港の端のテトラ帯あたりを攻めることにした。やり方はいつものパターンだ。ジェット天秤に7、8号の流線バリ。3、40m投げて底をゆっくりサビいてくる。ワンパターンと言われようとも一番実績が高い。

この海底は私が今まで体験した事のないような海底の形状だった。時々根掛かりのような感じにはなるが、やり取りするうちにするっと抜ける。湾岸では珍しく底が砂地なのがよくわかった。

2投目で早速アタリがあった。ハゼに似たアタリだがもう少し力強い。ハゼと同じようにあわてずに食わしてやると大きく糸が引き込まれた。上げるとそこには美しい白い魚体が輝いていた。シロギスだとすぐにわかった。

私は湾岸地域にはキスはいないと思っていた。いるとしたらもっと南の内房地域か太平洋に面した外房地域。キス釣りと言えば砂浜が広がった海岸から長く太い竿で思いっきり投げて釣るイメージしかなかった。

ところが、こんな港の入口で、しかもちょい投げでキスを釣りあげるとは思ってもみなかった。

結局その日は型の小さい15cm程度のものを10尾ほど釣りあげた。おかずには十分だったので、夕食に間に合うように引き上げた。

家に戻ると妻も驚いていた。岡山には砂浜があまりない。なのでキスは砂浜からの投げ釣りで釣る魚ではなくボートですこし沖に出て釣る魚だ。そんな魚を東京湾でしかも陸から投げて釣ってきたものだからびっくりしたのだろう。

夕食はキスのてんぷらだった。もちろん予想通りの絶品だった。

街中のてんぷら屋さんでもキスは最も好まれるネタの一つだろう。しかし、釣りたては家庭で揚げてもそれをしのぐ超絶品だった。

キス (これは超大物30cmクラス)

これに味をしめた私はまた次の手を考えていた。長浦で釣れるならもう少し南に行けばもっと釣れる場所があるのではないかと。地図を広げてみた。長浦から南は木更津まで盤州と呼ばれる巨大な干潟が広がっている。ここは浅すぎてキス釣りには向かないだろう。少し水深がある大型船が停泊できる港を探して目についたのが「富津新港」だった。巨大な駐車スペースもあり、車が横づけできる。私は次の目的地をそこに決めた。

翌週早速出かけた。あまり出発時間が早いと渋滞に巻き込まれるので11時を出発時間とした。多少渋滞にはまったが、2時間弱で富津に到着した。

到着すると早速先日と同じ釣法で釣り始めた。またもや私の感は当たった。

数は少し多い程度だがサイズが全然違う。ほとんどのものが20cmはある。ほんの2時間ほどで15,6匹になった。型も大きいのでこの日はそれで納竿とした。 帰りの車で私の頭の中にはブルーハーツの「キスしてほしい」が鳴り響いていた。

ポイント

今回は長浦港入り口と富津新港で釣った。水深の深めの港の外側や各地の海釣り施設ででの釣果が期待できる。

キスの釣り方

湾岸地域の海は大部分が遠浅の干潟か岩礁地帯だ。なかなか砂地の海底はない。しかしごく一部の港は砂地に上に建てられている。もともとある程度の水深がある砂地の海底に潜むキスはちょうどそのような港の岸壁からチョイ投げで狙える位置に潜んでいるのだ。

富津新港

キスは臆病な魚だ。普段は砂底にひそんでいて餌を待ち構えている。なにか衝撃があるとすぐに隠れてしまい、なかなか出てこない。港内にいるキスも同様に船などの出入りが激しいと寄りつかない。あまり船の出入りのない港にはキス釣りの好ポイントがある可能性が高い。釣り方は、投げては底を引きしばらく止めるの繰り返しという単純なものだ。キスは群れでいるのでアタリのあった周辺を丹念に探ってほしい。ハゼの釣り方と似ている。

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