5、カニ汁

9月に入っても私は行徳海岸に通っていた。

いつものように3本の竿を投入し釣りを楽しんでいると、しばらくして1本の竿にアタリが来ていたので取りこんでいると、また1本の竿にアタリが来た。2本の竿が入れ食いになりしばらくの間2本をやり取りしていた。

このとき、なぜか同じ2本の竿にしかアタリが来ない。餌が取られたのだと思いもう1本をシャクってみた。すると妙な重さを感じた。根掛かりしたかゴミがついたのだと思い、ゆっくりと細いハリスが切れないようにリールを巻いてきた。すると針の先に大きな物体がついているではないか。何だろうと覗くと全長20cm近い大きなカニがかかっている。私は興奮を抑えられず、大きな声で「ワタリガニだ。」と叫んでしまった。スーパーでは1匹2000円くらいで売られているのを見たことがある。

ハリスが切れないように一層慎重に慎重に巻き上げると、巨体が岸壁のコンクリートに上がってきた。

よく見るとスーパーで売っているものとはちょっと違うようだ。どうも爪が半端じゃなくでかい。普通のワタリガニの何倍もある。しかも凶暴で大きな爪をこちらに向けて威嚇している。何も道具がなかったので、私は仕方なく足でその甲羅を踏みつけ、横からうまくその巨大なハサミを避けて押さえつけた。「とったどー。」という気分だった。

昔から危ない動物が好きだった。江戸川に蛇を捕まえに行って、首に巻きつけて歩いていたら近所のおばさんに母親に通報されて叱られた。大きなガを捕まえたら毒があって手が腫れた。今でもご近所でカナヘビを捕まえる。

こいつはそうした私の闘争本能を刺激してくれるやつだった。ただ半端ではない。爪の力は普通の蟹の何倍もあるだろう。たぶん挟まれたらただでは済まないだろう。私は慎重にクーラーの中に叩き込んだ。

思わぬ大物に私はがぜん張り切った。もう1匹釣ってやろうと。2杯捕まえてカニ汁だ。

しかし、その後は苦戦する。ハゼはもう十分なのだが、なかなかカニが釣れない。アタリがあっても途中で外れてしまう。ハリを大きくし、ハゼが掛かってもそのままにしておいた。掛かったハゼを食べに来るのかなと考えたからだ。だがそれも駄目だった。

結論としてこの道具だとハリに掛かることはあっても、ほとんど取り込めないのがわかった。カニの重さを感じてもしばらく水中を引いてくると突然軽くなる。また、水中はいいのだが最後の最後に水面近くで外れてしまう。

対策を考えた。それには別の道具が必要だ。来週実行することにしてその日は納竿とした。

このカニはカニ汁になった。帰っても生きていたので翌日料理しようと思いクーラーの中に氷を入れたら、なぜか動かなくなった。仮死状態になったようだ。寒さに弱いのか。ちょうどよかったのでまな板の上に乗せて出刃包丁で一気に半分にした。そのまま鍋に入れ、水から沸騰させあくを取った。ネギと豆腐を入れたら出汁なしで絶品のカニ汁ができあがった。

これが、うまいんだなぁ。

ワタリガ二の仲間、石ガニ

翌週私は釣具屋に買い物に来ていた。目的のものは2つ。

1つ目はカニを水中で取り込むアミ。行徳海岸の岸壁は結構高いので5mの長さは必要だろう。2000円程の出費となったが仕方ない。

もう1つはカニを取る専用道具だ。カニマンションというカニかごだ。四方を網に囲まれていてカニが餌をめがけて入ってくると一方通行になっていて出られなくなる。

実は私はこれを使ったことがあった。

カニマンション(カニかご)

私の岡山の義父はエンジン付きのボートを自分でもっていて、仕事以外の時間はすべて釣りのことを考えているような人だった。自分のボートをつないでいる波止の横にこのカニマンションを仕掛けていた。夕方、近所の魚屋にアラをもらいに行く。それを持って行ってカニマンションに餌を入れておくと朝には何杯かのガニが入っているというすんぽうだ。そのワタリガニがおいしかった。

ということで、私はそれと同じか似たものがあるだろうとふんでいた。案の定それとまるっきりおなじものが置いてあった。それも1個500円という安さだ。2つ購入してホームセンターでかごに結ぶタコ糸を買って結びつけた。先端にはひもを撒いておくペットボトルの空きボトルを縛っておく。

餌は1匹100円の冷凍サンマにした。魚屋にアラをもらいに行くことも考えたが、面倒なのでやめた。

これで出来上がりだ。

新兵器を2つ携えていざ出陣。

ポイントに入ってすぐにカニかごを投入した。餌はサンマを1匹を4,5切れに切って入れた。カニは特に内臓部分を好むので内臓にはいくつか切れこみを入れておいた。匂いに寄ってくるらしい。釣りが終わった時にあげることにした。

カニ釣りもはじめた。

いつものようにェット天秤にハリをつなぐだけの簡単なものだが針だけは少し大きめの9号にした。大きなものが掛かっても切れないように。ハゼが掛かっても引き上げない。 そのままにしているとそこにカニが寄ってくるはずだ。この釣りは退屈だ。ひたすら待つしかない。

周りを見回すと面白い光景に出くわした。

ものすごく大きく立派な竿に投網を小さくしたような変な仕掛けつけて投げている人がいる。何だろうと思い覗いて見た。その網の中には魚のアラがついている。何となく察しがついた。その方はやはりカニを狙っていると言っていた。

仕掛けの餌に食いついてきたカニを網に絡めて獲ってしまおうという発想だ。面白いこと考えるなと思った。よく見ると結構同じ仕掛けの人がいる。先週は気がつかなかったが。。。。

聞いてみると、どうもここのカニ釣りは1年中出来るのではなくここらでは秋だけの風物詩らしい。それで先週はいなかったのかと納得。この方法を試すのもいいかなと考えたが竿は巨大でたぶん2,3万円はするだろう。リールもいれたら。。。やめた。

自分の釣りに戻る。10分に一度くらいの割合で竿をあげてみたがハゼは掛かるがカニはなかなか掛からない。2時間ほど経って周囲が暗くなり始めると急にカニが掛かりだした。カニは夜行性らしい。

結局アタリは5回ほどで2杯釣り上げた。アミが役に立った。そのまま引っこ抜いていたらたぶん全部バラしただろう。

7時頃にはあたりは真っ暗になっていた。カニかごをひきあげて帰ることにした。なぜかドキドキする。

昔から魚釣りより魚捕りの方が好きだった。よくタモアミやビンドウや四つ手アミでフナやコイを捕まえた。特に四ッ手アミの中に練りえさを落として待つのが好きだった。ちょうどこのカニかごと同じ原理だ。

カニかごをあげる。ひもを引っ張り始めるが、カニかごの黒い色と真っ暗になった海面が混じってよく見えない。岸壁の足元付近まで揚がってきてようやく中がかすかに見えだした。なにか黒っぽいものが動いている。カニだ。作戦成功。

2つのカニかごに3杯のカニが入っていた。2匹は今までのカニと一緒だが、もう1匹は青い色をしていた。よくスーパーで売っている冷凍物のカニと同じだ。大漁だった。

2杯はカニ汁。3杯はゆでて食べた。2品とも絶品。大満足の釣行だった。

あとで調べたら爪が大きいのが石ガニ、青いのが台湾ガザミだった。

ポイント

行徳海岸では秋になるとたくさんのカニアミ仕掛けの人が投げている。

ワタリガ二は東京湾でならどこでも釣れる。冬に冬眠するので獲れるのは春から秋にかけての時期だけだ。特に夏から秋にかけてよく獲れる。場所によって獲れる時期が少しずれる。南の方が少し早めに獲れ出して少し早めにいなくなるようだ。

ワタリガ二の獲り方・釣り方

ワタリガ二の仲間石ガニは岩礁地帯に多く潜み、夜になると海面を泳いで移動する。アイナメやメバルの外道で釣れたり、岸壁にくっついているのを網で獲ることもできるが、なんといってもカニマンションで獲るのが簡単だ。釣りの合間に出来る。

獲り方はカニマンションに餌として冷凍サンマなどの青魚を5cm程度に切ったものを入れる。1つのかごに4つ程度でよい。カニは内臓類を好むので上手く内臓の部分が分散するように分ける。釣りの開始時に入れておいて終了時に引き上げる。カニは夜行性なので夜にしかけて朝引き上げるのがベストだ。

釣りも出来る。釣る場合はアイナメのミャク釣りと同じようにやればよい。引き上げる時途中で外れてしまうことが多いのでタモアミを用意すると釣果が伸びる。

釣り仕掛け

ハリ7~9号、ハリス1.5号、オモリ4号、1本バリ、エサ 青イソメ

釣り方は簡単だ。餌は目立つようにタラシを長めに8cm取る。水深3m以内の浅めの岩礁地帯に仕掛けを投入して、2,3分待つだけだ。アタリはよくわからないが、掛かっていれば竿が重くなる。ゆっくり上げてきてカニが付いていたら網ですくえばよい。

ガザミ、台湾ガザミはいわゆる一般的なワタリガ二で、あまり岸近くでは獲れないが、ときどきカニマンションに入ることがある。緑っぽいのがガザミで青っぽいのが台湾ガザミだ。江戸前のガザミは高級食材で生きているもは一杯5000円以上することもある。

こちらは別のカニ網を使って捕った様子を写した動画です。参考にしてください。

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