9、サッパりとマんマをカリて食べましょう

5月のある日、船橋港でイワシを釣っていると、見覚えのある魚がかかってきた。コハダに似たこの平べったい魚は私のなじみの魚だった。

私の釣りの師匠は妻の父だ。岡山の海辺の町に住んでいる義父は自分の船を持っているほどの釣りキチで、私たち家族が岡山に滞在する時はいつでもその船で釣りに連れて行ってくれる。初めて妻の実家に行った時も義父は船を出してくれて釣りに連れて行ってくれた。

その時に初めてサビキ仕掛けというものを見た。7本バリのそれぞれに白っぽいビニールのようなものが付いている。それはバケと言ってさばの皮で出来ている。魚はその仕掛けを海に落として竿を上下に上げたり下げたりするだけで釣れるらしい。私にとってはにわかには信じがたい釣法だった。幼いころ苦労して、近くの池でフナやコイの幼魚を練り餌で釣ったり、江戸川でミミズをエサにハゼを釣っているような人間にとってはエサも付けずに魚が釣れるなどとは考えが及ばなかった。

初めてのサビキ釣りはあっけなく始まったが、しかし、それは私を圧倒した。糸をたらした次の瞬間にブルブルというあたりが来て、竿を上げると7本のハリの内5本に15cmほどの魚がかかっていた。それは義父も同じで、2人の釣果はわずか3、40分ほどで船内のクーラーをいっぱいにした。1時間ちょっとで家に戻った。なんだか近所のスーパーに魚を買いに行く感覚と同じだ。ちょっと夕飯のおかずを捕りに行く。海は冷蔵庫か?

そんな釣りは初めてだったので、瀬戸内海は恐るべし所だと思った。やっぱり東京とは比べ物にならない自然が存在するのだと、私は思った。その釣った魚がママカリだった。ママカリとはその魚があまりにうまいので隣の家にご飯、つまり「まんまを借りにいく」ところから付いた名前らしい。

話を元に戻そう。実は船橋港で釣ったその魚がママカリだったのだ。こんなところでママカリが掛かるのかと私は不思議だった。

ママカリは岡山の名物で、新幹線のホームでもその酢漬けを売っているほどの名産品だ。私は岡山近辺の瀬戸内でしか取れない魚だと思っていた。が、場違いであるはずのこんなところでお目にかかるとは。。。。

その日は10匹ほどママカリが混じっていたがあとはイワシで、全部で5,60尾釣っただろう。2週間前に比べるとイワシの数はずいぶんと減っていた。そろそろイワシの群れは離れてしまうのだろうと思い、次は秋かなと考えながら船橋港を後にした。

うちに戻って家族にママカリを見せるとたいそう驚いていた。皆もママカリは岡山の魚だと思っていたようだ。早速酢漬けしていただいた。おいしかった。味は新鮮なコハダといった感じだ。

その日はそこまでだったが、また私の感が働いた。岡山でのママカリ釣りはいつも夏だ。夏にまた船橋港に行ったらもっと釣れるのではないかと考えた。

7月に入って下の息子を連れて船橋港に出かけた。

東京のママカリ、サッパ

私の感は当たった。爆釣だった。岡山での釣りに勝るとも劣らない入れ食いだった。息子も大喜びだ。クーラーが3分の1くらい埋まったところで納竿とした。息子はもっとやりたいと言ったが、やめにさせた。そんなに食べられないと思ったのだ。

釣った魚の調理担当は私だ。こんな数の魚の調理をしたら下ごしらえだけでも大変だ。妻は瀬戸内のくせに魚が嫌いだ。というより義父に魚を食べさせられ過ぎて嫌いになったようだ。

「おいしい魚は?」妻に聞くとマグロ、サケ、サンマと答える。岡山で獲れないものばかりではないか。当然ママカリもだめだ。魚を下ろすことも出来ない。うろこ、内臓、頭などを取ってある下処理済みのものや三枚におろしてあるものは調理するが、丸ごとの魚は塩焼き以外しない。かくして釣った魚の調理担当は私になった。

ママカリ料理をいくつか料理を紹介しよう。

1、酢漬け

うろこ、頭、内臓を取ったママカリを水で半分に薄めた酢に浸ける。好みで砂糖を少し入れる。5,6時間で浸かり、骨ごと食べられる。わさび醤油で食べればコハダに似た感覚。美味。

2、刺身

新鮮なママカリは刺身でもOK。大きめの魚を選んでうろこ、頭、内臓を取り、三枚におろす。魚が小さいので面倒だが、トライする価値はある。小骨が少しあるがこれも美味。

3、焼き

これが一番簡単かも知れない。大きめのものを選んでそのまま下処理はせずに何もつけないで焼く。焼きあがったら酢醤油にしばらく浸してから頂く。再度焼いてもよい。香ばしい不思議な味だ。私はあまり好みではないが、うちの父母はこれが一番好きだ。

4、マリネ

酢漬けと同じ要領でさばいたママカリを、スライス玉ねぎと一緒にフレンチドレッシングで半日ほど漬ける。冷蔵庫に入れておくと尚良い。こちらも骨ごと食べられて、しかも酢が苦手な人にも大丈夫だ。

ママカリ料理(写真は左が酢漬け、右が刺)

私のお勧めは酢漬けだ。こいつは絶品だ。私はあまり魚の酢漬けをたべる習慣がなかったがママカリのおかげで酢漬けが好きになった。本当に「まんまを借りに行く」ほどうまい。

ちなみにママカリは7月後半から9月に産卵する。産卵すると脂が落ちて味も格段に落ちる。私は船橋で8月に釣ったものと直後に岡山で食べたママカリとの味の違いにびっくりした。船橋のは産卵していて岡山のものは産卵していなかったのだ。そのときはやっぱり岡山のママカリはうまいと思ったが、しかしそれは勘違いだった。岡山でも東京湾でも脂ののったママカリはどちらもおいしい。

ママカリは関東ではサッパという。サッパが釣れても関東の釣り人は捨ててしまうことが多い。サッパではなくママカリだと思って一度酢漬けを試してみていただけないだろうか。

東京湾は瀬戸内海にも負けず劣らずの豊かな海なのだ。

ポイント

船橋新港でよく釣れたが、現在は立ち入り禁止になっている。

サッパは東京湾全域で簡単に釣れる魚だ。回遊魚で夏に釣れる魚だ。5m程度の水深のある港や海岸ならどこでも釣れる。若洲海浜公園、浦安港、千葉港、長浦港、富津新港、東扇島、根岸港や各地の海釣り施設などどこでも狙える。

湾奥でよく釣れるが、逆に言えば湾奥での真夏の昼間の釣りではほとんどこの魚しか釣れない。

仕掛け

サビキ仕掛け ハリ 5号~8号 5本または7本がけ オモリ 4号 サビキカゴにコマセで尚よし

少し遠目にサビキ仕掛けを投入してサビキながら引っ張ってくる。タナは中層より深め。イワシと釣り方は一緒だ。

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