31、三匹目のアナゴ

夏の夜釣りのターゲットは何と言ってもアナゴだろう。ただ私はアナゴをターゲットして狙ったことはない。理由はいくつかあるが、まず仕掛け作りが面倒なことが挙げられる。

通常私が用いている仕掛けはスナップサルカンにオモリを付けてハリを結ぶというシンプルなものだ。しかしアナゴを狙うにはそれだけでは不十分だ。まずサルカンまたは天秤の前後どこかにケミホタルという発光体を取りつけなくてはいけない。さらに餌もいつもの青イソメではなくサンマの柵切りを使う。青イソメでもダメなことはないが釣果が違う。ある程度の遠投が必要なので竿も太く長いものがよい。

面倒くさがり屋の私にはちょっと手が出しづらい釣りなのだ。

さらに、釣ってきたアナゴの料理がまた大変だ。てんぷらや煮つけなどおいしい料理ができるのはわかっているのだが、どの料理にするにせよ、まずは目打ちをしなくてはならない。ときどき別の魚を狙っている時の外道として釣れてくるのだが、素人にこの作業は至難の技で、私などは悪戦苦闘の末に身がボロボロになってしまうということの繰り返しだった。

そんな事情だったのであえて狙おうという気が起らなかった。

ところが、夏も終わりに近い時期に驚いた出来事があった。

長浦で夜メバルを狙っている時、ついでにカニでも捕まえようとカニかごを2つ用意し、いつものように餌のサンマの切り身を一緒に入れて沈めておいた。カニ狙いなので足元の岩礁地帯の浅瀬に置いた。水深はほんの1m程度のところだ。

メバルの釣果は芳しくなく数匹しか釣れていなかった。カニかごは入れてから30分程たっていたので一度チェックしようと揚げてみると、妙に重さを感じた。中を覗くと数匹のうねうねした物体が見えた。

私は「また、アナゴンダか。まいったなと。」と思った。かごの中には60cmは超えている3匹のアナゴンダが動いていた。手でつかもうとすると噛もうとする。噛まれたら大変なことになる。噛まれないようにカニばさみを使って注意深く取り出し海に戻した。別のかごを上げるとまたしてもアナゴンダが二匹入っていた。1つ目のカゴと同様に注意深く取り出そうとすると少し不自然な感じがした。

このアナゴンダをよくよく見るとどうも色が薄い。しかも体側に斑点がついている。もしかするとこれはアナゴンダじゃなくてマアナゴではないのかと考えた。iPhoneで、「アナゴ」と「黒アナゴ」をネットで検索をかけてみた。案の定これは黒アナゴではなくてマアナゴだったのだ。二匹をゲットしたが、先ほどバカなことに三匹逃がしてしまった。まだかごに入るかもしれないと思い、二匹目のドジョウならぬ三匹目のアナゴを狙ってかごを投げ入れた。

アナゴ釣果

30分ほどしてから同じようにかごを揚げてみた。予想通り、いやそれ以上だった。それぞれのかごの中には同じようなサイズのアナゴが3匹ずつ入っていた。残念なことにこのアナゴは大きすぎて8匹もクーラーに入らない。残り3匹を追加し5匹でヤメにした。生き締めをしたいところだったが、こいつらは凶暴でちょっとでも私がクーラーに手を入れようとすると必ず指を狙ってくる。家に持って帰る間に少し弱らせることにした。車の中でもガサゴソと暴れていた。

家に着いた時にはさすがに弱っていて料理することができた。以前に釣れたアナゴはきちんと料理しようと格闘したがいつでも失敗していた。この時はきちんと目打ちしての料理ははじめからあきらめていた。簡単にぶつ切りにして煮つけにしてしまおうと考えていた。一匹をそれぞれ尻尾の部分を除いて四等分する。腹の部分を切って胴の部分に細かく切れ目を入れる。そうすれば味が染み込みやすく三枚に下ろした時と同じようになるだろうと考えた。それで正解だった。江戸前絶品アナゴ煮付の出来上がり。

このアナゴは東京の店で出てくるものとは同じ魚だとは思えないくらいにおいしかった。面倒な目打ち等しなくても簡単においしく食べられる。

実はこのアナゴと同じレベルのものを3回食べたことがある。1つ目は岡山の義父が釣ってきたものを、その夜のうちに食べたとき。もう1つは東京の高級料理屋で生きているのを、その場でさばいてもらったもの。3つ目は富津岬の食堂でその日の朝に上がった物を昼の定食で食べた時。たぶんアナゴは新鮮さが勝負なのだろう。もしかすると、鰻と同じように生きているものを調理すれば、味は異なるが鰻と同様に高級料理になるのではないか、思った。

アナゴの釣り方

アナゴは夜行性だ。夏に陸の近くまで餌を漁りに来るが、秋や冬でも釣れることがある。特に秋のある時期に冬に備えて大食いをする。その時にあたると爆釣になることがある。基本的に置き竿でアタリを待つ釣りだ。エサは青イソメの房掛けかサンマの切り身がよい。アナゴはハリに掛かると暴れて仕掛けをグチャグチャにしてしまう。ある程度の仕掛けのロスは覚悟しておこう。

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