13、大人の潮干狩り

ゴールデンウィークのある日、いつものように船橋新港でイワシ釣りをしようと出かけた。ところが船橋新港に渡る橋のところから大渋滞が発生していた。いったいこれは何事かと思い周りを見回すと、家族連れのレジャー部隊がほとんどだった。

すぐにこの人たちは船橋海浜公園の潮干狩り客だとわかった。4月から6月の干潮時に船橋海浜公園の特設場所で潮干狩りが開催される。潮干狩りを開催というのも変だが、本当に開かれるのだ。つまり、有明海産や輸入物のあさりを開催日の前日に撒いてその貝を取らせるのだ。つまり仕込みだ。入場者は入場料420円を払い、掘ったあさりを100g60円で買い取って持ち帰る。簡単にいえばあさり版の釣り堀だ。もちろん釣り堀なのでたくさんとれる。それでバケツにいっぱい取ると「はい、3000円です。」などと言われる。

その日は結局ポイントまでたどり着けずに別の場所で釣った。

後日近所の居酒屋でその話を友人にすると潮干狩りに行こうという話になった。横で聞いていた居酒屋のマスターが俺も連れて行けというので3人で出かけることにした。ただし釣り堀部分ではなくそのまわりを掘ってみようと。男3人の大人の潮干狩りだ。

潮見表をチェックして、ラッシュになる少し前には到着するように出かけた。早めに出たつもりでもすでに車がいっぱいでなかなか駐車スペースがない。浜から300mは離れているところにやっと空きを見つけた。

熊手と袋、砂をはかせるための海水を入れる2リットルのペットボトルを抱えていざ出陣。砂浜手前に大型バス用の駐車場があり、そこを抜けていくと砂浜に出る。実際は砂浜というより粒の細かな泥浜だが。

囲いの中には大勢の潮干狩り客が既に入っている。砂浜にはデイキャンプの人たちもちらほら。よく見るとすべてが家族連れだ。やはり潮干狩りは子供連れで来るところだようだ。マスターが今度は孫と来ようと言っている。

アサリ

囲いの外に目をやるとそこにも結構な数の人が貝を掘っている。ここは囲いの中とは逆で、ほとんどが大人で黙々と掘っている。大人の潮干狩り場といったところだ。

低い防波堤を下りて浜へ足を進めた。この近辺で取っている人たちのバケツを除いてもほとんど貝は入っていない。もっと沖に行った方がいいようだ。一度少し深くなってひざ上まで水が来たが、また浅くなっていて、くるぶし程度の水深だ。浜からは結構な距離を歩いていた。そこはちょうど江戸川放水路の河口付近にあたるところだ。こで友人とマスターとは別れ、それぞれ別に貝を探すことにした。

水の中は砂状になっている部分と少し硬い岩状になっている部分に別れていた。俺は熊手で掘りやすい砂状の部分を掘り始めた。ところがいくら掘ってもなかなか貝が出てこない。

子供のころ幕張近辺はまだ埋め立てられておらず、遠浅の干潟だった。そこによく潮干狩りに連れて行ってもらった。砂を掘ると面白いようにアサリが出てきた。アサリだけではなく、時々赤貝も取れる。赤貝は刺身で食べられた。子ども心に赤貝は宝物のようだった。シオフキも取れたが父がそれはダメと言って捨ててしまう。アサリとシオフキの区別がつかなかったので、もったいないなと思っていた。

今ここではアサリどころかシオフキも出てきやしない。

5分ほど続けてやっとのことで最初の1個を掘り当てた。と思ったらこの貝はあまりみたことのない貝だった。確か昔江戸川の河口で貝掘りをした時見つけた貝と一緒だ。その時は捨てて帰った。白くて流線形のきれいな形をしている。食べられるかはよくわからないがとりあえずキープしておいた。

その後は同じようなペースでアサリとその貝が取れた。30分ほどしてやっと5,6個の貝が集まった。半分は例の白い貝だ。

潮干狩りのできる時間は最大で3時間程度だ。この日は中潮だったので、実際は2時間くらいだろう。5分で1個なら全部で20個くらいしか取れない。これはまずいと思い、方針を変更し、岩状の部分を探ってみることにした。

よく見ると岩に見えたのは実はカキや貝の殻だった。死んだ殻が積もっている。ちょっと汚い感じだが背に腹は代えられない。

掘り始めると結構この中に生きているアサリが混じっていた。先ほどの白い貝もまばらだが混じる。こちらの方が正解だった。たぶん他の人は硬くて危険なのとちょっと汚いので避けているのだろう。

ここからはいいペースになった。まず、熊手で30cm四方部分を15cmほど掘り返す。掘り返した泥の中を軍手をつけた手で探っていく。すると中から2,3個のアサリが現れるというすんぽうだ。

結局終了までにアサリを袋半分ほど、1kgくらいか、例の白い貝も10個ほど獲れた。

帰りに合流した友人、マスターも同じような成果だった。

このくらいがちょうどいい。酒蒸しと味噌汁でちょうど我が家の1回分の夕食になる。ペットボトルに砂抜き用の海水2Lを汲んでから帰途に就いた。この海水が結構透き通っているのには驚いた。東京湾も随分ときれいになったようだ。

家に戻って例の白い貝のことを調べた。カガミガイというらしい。ネットでの評判はあんまりよろしくないようで、食べようか躊躇していると、先ほど別れた友人から情報が入った。ハマグリと同じ味だから焼いてみなとのこと。マスターの居酒屋で食べたらしい。早速トライした。

持って帰ってきた海水でアサリとカガミガイを3時間ほど砂抜き。アサリは酒蒸しと味噌汁に。カガミガイは網で焼いた。口がそれほど開かなかったので無理やり開けて醤油をたらした。砂が多少気になったがおいしい。もう少し砂抜きに時間をかければもっといいだろう。

これで今まで潮干狩りといえばアサリの味噌汁と酒蒸し2品のだったおかずが、焼きカガミガイを加えて3品に増えた。

最近はカガミ貝と似た形をしたすこし黒い貝が良く採れる。調べてみるとホンビノス貝というものだ。外来種で最近東京湾でも獲れだした。カガミ貝は白く、ホンビノスは少し黒っぽい部分があり肉に厚みがある。味は断然ホンビノス貝がおいしい。この貝の一番の売りはあまり砂抜きしなくてもよいということだろう。アサリはこのところ不調だがホンビノスは絶好調である。1時間ほどでバケツいっぱい取れる。

注意

三番瀬のアサリ取りは違法ではないかとの話がある。実はこの話はとても複雑でいろいろな解釈ができる。俺が調べた範囲でそのことについてお話ししておく。

日本には魚介類を取る権利、漁業権というものが存在する。もともとこの漁業権というのも変なもので、育てたものなら権利があるのはわかるが、なぜ育てていないものの権利があるのかが不思議だ。その上東京湾に関してはさらに複雑で、ほとんどの海岸線が埋めたてられた際にこの漁業権が放棄された。なので実際に東京湾で漁業権が存在するのはこの三番瀬と袖ヶ浦付近の盤州と富津以南と横須賀以南の4箇所だけだ。つまり湾岸地域では三番瀬以外ほとんど漁業権が存在しない。しかも三番瀬のうち浦安側は漁業権が存在しない。また船の航路にあたる部分には漁業権は設定されないので、川の河口とその延長線上の航路部分にも漁業権はない。

東京湾の漁業権設定場所の地図

(共と書いているところは漁業権あり、それ以外はなし)

このことから貝類の捕獲については江戸川や真間川の沿岸や浦安市日の出付近では可能ということになる。また、船橋海浜公園の潮干狩り場のあたりも実は漁業権が設定されていない。海岸から沖約500mあたりにポールが立っているがそこまでは採取可能なのだ。このことは船橋漁協のホームページにも載っている。(図参照)地図で見るとこの先から沖1km程度の場所に江戸川の航路がある。ここまでが漁業権の範囲だが、どこまでが範囲なのかは良く分からない。俺たちはよく江戸川放水路河口にあたる沖1km付近で採取していたがここはグレーゾーンだ。乗り合いの漁船で現れる潮干狩り客(一般の方)もよくこのあたりで獲っているし、その船頭さんにもよく「今日は取れるかい?」などと話しかけられるので、セーフなのではないかと思っていた。

三番瀬の漁業権

また、漁業権は主に貝類や海藻類、イセエビといったものにその場所ごとに適用される。例えば三番瀬で獲ってはいけないものはアサリ、カキ、ハマグリ、モガイ(赤貝に似ている)、バカ貝、シオフキなどだ。近年ホンビノスも漁業権が設定された。ハゼやセイゴなどの魚類や漁業権の範囲に入っていないカガミ貝やマテ貝は獲ってもOKなのだ。

三番瀬の漁業権に関してはもう1つ話がある。実は埋め立てを条件に船橋の漁民はすでに漁業権を放棄しているのだ。しかも補償金も得ている。今の漁業権は1年ごとの仮のものだ。市川の漁民も似たようなもので漁業権は持っているものの補償金の仮払いを受けているのだ。つまり三番瀬関連のすべての漁業者は漁業権放棄の対価としてお金を受け取っているのである。恒常的な漁業権を持っているものはだれもいない。

もちろん、このことで三番瀬ならどこでも自由に獲っていいということにはならないのが釈然としない。もちろん、こういう事情とは別に採取禁止の場所では採らないでほしい。

別の話だが、東日本大震災などの影響で船橋、市川、浦安の海岸地区でも大きな被害が出た。その影響で危険防止のため海岸線へ近づくこと自体が禁止されている場所がまだある。気を付けてほしい。幸い、船橋三番瀬や浦安の日の出などは復活したようだ。

アサリは浅瀬の砂地になら、ほとんどどこでも生息している。千葉や神奈川の河口付近ならどこでも採れる。漁業権のない場所で獲るのなら問題はないのだが、その場合でも次のことに気をつけたい。、千葉県や神奈川県の条例で禁止事項があるので書いておこう。

千葉県の条例

1、27mm以下のアサリを取らない。

2、大型の漁具では取らない。(大形のじょれんなど)

3、漁師の邪魔はしない。

神奈川県の条例

1、20mm以下のアサリを取らない。

2、大型の漁具では取らない。(大形のじょれんなど)

3、漁師の邪魔はしない。

条例ではないが、資源保護のために一家族せいぜい1kg程度で我慢しておきたいものだ。

一般開放されている金沢八景海の公園や野島公園では制限がないことをいいことに一人で何十キロも採取する人がいるらしい。また新しく出来た東扇島東公園では砂浜での潮干狩りを認めた途端にみんなで獲りつくしてしまったという話を聞いている。

東京湾は資源豊かな海なのでまた春には浜いっぱいのアサリで埋め尽くされるだろうが、ちょっとさみしい話だ。

このようにいろいろな事情があるので、最近俺は潮干狩りをはあまりしていない。やるとしても京葉線鉄橋下の江戸川河口でホンビノス貝を10個程度取るくらいだ。漁業権のない場所で外来種のホンビノスを採取しても誰にも文句は言われない。

ポイント

無料で潮干狩りが出来る場所を挙げておく。各地の河口付近の浅瀬や砂浜の海岸で出来るが、千葉では浦安の日の出、江戸川放水路の河口付近、船橋三番瀬、幕張の浜、検見川浜、稲毛の浜、千葉ポートパーク、養老川臨海公園、新富運河がお勧めだ。特に富津の新富運河ではよく潮干狩りの方を見かける。東京では葛西臨海公園やお台場海浜公園、城南島海浜公園で出来るが量は獲れない。神奈川では金沢八景海の公園や野島公園、東扇島東公園で出来るが、あまりに人が押し寄せて来て団子状態だ。注意してほしいのは盤州や富津岬付近、横須賀では漁業権が設定されているので潮干狩りはできない。

富津市新富運河(ふれあい公園)
東扇島東公園

獲物はアサリ、ホンビノス貝、カガミ貝、バカ貝(アオヤギ)、マテ貝だ。

いくら無料だと言っても節度を持って収穫したい。一家族で1,2kgが限度だろう。

貝の採り方

1、まず潮干狩りの場所の潮汐を確認する。インターネットなどで潮汐表は簡単に見つけられる。潮位の差は大潮、中潮、若潮、長潮、小潮・という順で小さくなる。大潮と中潮の時が潮干狩りに適している。最低水位が干潮時に60cm以下なら大丈夫だろう。水位は低ければ低いほどよい。水位が80cm以下が潮干狩りの時間帯となる。それ以上だとある程度水に浸からなければ採取出来ない。

2、アサリ、ホンビノス貝、カガミ貝の採り方

①、30cm四方の砂を小型のシャベルで深さ10cm程度掘り起こす。ホンビノス貝、カガミ貝の場合、15cmほど。ある程度水がある方が砂を掘りやすい。波打ち際が最もよい。ただの砂地よりも少し石や岩がある方が採れるところもある。

②、掘り起こした砂の中を軍手を付けた手で探す。砕けた貝殻等があるので素手では危険。

③、貝が入っていたらその近辺を丁寧に探る。貝は群れでいることが多い。

④、いなければ場所を移動して同じことを繰り返す。

この方法が熊手などで掘りながら探すより効果的だ。アサリの産卵は春と秋で産卵前のものがおいしいと言われている。ホンビノス貝、カガミ貝は1年中産卵するので何時でも大丈夫だ。

3、マテ貝の獲り方

マテ貝は採るのではなく獲るのだ。

①、砂に空いた呼吸用に穴を見るける。穴は約5mm程度の大きさだ。カニの穴も同じようなものなので区別はつけにくい。

②、幅の薄いシャベルなどで表面の砂をひきはがすように5cmほど掘る。穴がそのまま残っていればマテ貝がいる可能性が高い。

③、穴に塩を振りかける。小さじ半分くらいでよい。水が完全にないところでは海水を少しかけてやると効果的だ。

④、マテガイが何回か顔を出すので素早く引きぬく。タイミング良く引きぬかないとまた穴に潜ってしまい。二度と出てこない。

⑤、貝を捉えてもうまく引きぬかないと途中でちぎれてしまうので、力の入れ加減は慎重にする。

本当にこんなところにいるのかというところにもいるのでびっくりしてしまう。周りにマテ貝の貝殻が落ちていれば必ずいるので根気よく探してほしい。マテ貝獲りは本当に面白い。ぜひ挑戦してほしい。

マテ貝は少し臭みが出やすい貝だ。酒やバター、ニンニクなどで料理するとおいしい。

マテ貝

4、バカ貝(アオヤギ)の採り方

バカ貝の場合は掘るというより拾うと言う感じが近い。

①、砂浜になっている海岸に素足で膝ほどまで水に浸かる。

②、足の裏で丁寧に砂を掘り起こす。その場合、決して力を入れてはいけない。バカ貝の貝殻は薄く壊れやすい。

③、砂表面のすぐ下の貝がある。ときどき砂の上に落ちていることもある。

バカ貝は砂抜きがしにくい貝なので、通常はその長い水管と貝柱だけを食べる。軽く湯がいてから剥いて、酢ミソでいただくとおいしい。

貝には毒がある場合がある。夏の貝を生で食べる時は特に気を付けてほしい。

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