秋のある時、下洲でアイナメを岩場で勝手釣法(仕掛けを投げ込んでおくだけの置き竿)で釣っていた。糸を巻くと根掛かりしたように重くなっていた。前後左右に竿をしならせてなんとかはずそうともがいていると、突然軽くなって、ふっと仕掛けが上がってきたが、どうも何かついている感覚だ。こういう時はほとんど、海藻や死んだ貝殻だったり、まれに石ガニだったりする。言い忘れていたが長浦や下洲などでも時々石ガニが釣れる。
石ガニを期待して上げていくとそこには何やらニョロッとした不気味な魚がついていた。私はすぐに気がついた。「ギンポだ。」
実は1度だけギンポを捕まえたことがある。それは岡山でだ。
夏岡山に滞在にしている時だった。いつものように義父の船でママカリを釣りに出かけた。まだ潮が悪いということで、近くの小さな無人島に上陸して潮干狩りをすることにした。島といっても小さなもので干潮時でも周囲100mほど、満潮時にはほとんど沈んでしまうような島だった。その時は干潮時でいつもは沈んでいる島の外周が陸になっていた。こんな時はマテ貝や取り残された小魚が採れる。
東京湾でのマテ貝獲りとは違い瀬戸内のマテ貝獲りはスピード勝負だ。マテ貝には一定の間隔で潮を吹く習性がある。干潮時に陸になっている地面を見ていると時々1mほどしぶきが揚がる。それを見つけては急いで走って行って、素早く砂を掘る。簡単な方法だが、3,40分で10本ほど捕まえた。
ギンポ |
マテ貝はそのくらいで十分だったので今度は別の物を探そうと周囲の岩をひっくり返し始めた。岩をどけるとそこに貝や小魚、タコなどが潜んでいることがある。その時、大きな岩をひっくり返すとニョロっとした見たこともない魚が現れた。長さは30cmくらいあった。私ははじめウツボの小さなものかなと思い慎重に捕まえたが鋭い牙は無かった。義父は岡山での呼び方「カタナメじゃ。」などと言っているが、私にはピンときた。「ギンポだ。」江戸前の高級天ぷらネタだ。
義父は「そんな魚ここいらじゃ食わん。」と言っているを持ち帰って無理に頼んで料理してもらった。ギンポのてんぷらは最高だった。
あの岡山で見て以来のギンポだった。その日は2尾ギンポを釣った。それも30cm以上の大物だ。早速持って帰って料理した。
料理は大変だった。後で気づいたが、ぬるぬるするギンポ料理にはアナゴやウナギと同様に目打ち用に千枚通しが必要だ。そんなものはなかったので無理やり3枚におろした。ぬるぬるの胴体と20分ほど格闘してようやく1本さばいた。これ以上もう無理だと思い、あと1本は煮付けにした。
果たして味は??
てんぷらはやっぱり絶品だった。が、煮付けはいま一つだった。小骨が多いのと身が煮付けにするとどうも硬くなるらしい。
ということで、ギンポはやっぱりてんぷらだ。ちなみにカラ揚げはいける。
その後目打ち用千枚通しを購入し、ギンポやアナゴは時々さばくようになったが、これがいくらやってもなかなかうまくならない。知り合いのすし屋のマスターに料理を頼んだら、いとも簡単にさばいたが、居酒屋のマスターに頼んだら私とどっこいだった。目打ちは料理のなかでも特別な技術なのだろう。
ギンポは「銀宝」から来ているらしい。先人は上手いことを言うものだ。
今回のポイント
今回は下洲漁港で釣った。東京湾内の岩礁地帯ならどこでも釣れる。ただし大きいものはあまり掛からない。
ギンポの釣り方
アイナメのミャク釣りの仕掛けで、あまり誘いはかけない。どちらかといえば置き竿に近い。ただしあまり放ったおくとハリをのみ込まれる。その場合、深くのみ込まれるのでハリは取れない。