27、夏のビールのおつまみ 手長エビ

梅雨になると江戸川のいつもの取水塔下には家族連れで釣りをする人が多数現れる。手長エビを釣るのだ。数年前からこの手長エビ釣りはひそかなブームになっているようだ。雑誌やテレビでも時々取り上げられる。

子供のころに水元公園で魚捕りをしている頃に何匹かこのエビを捕らえては自宅のバケツで飼っていた。子供心にも手がやたらに長いこのエビの形が好きでアミに入るととてもうれしかった。私たちはそれを「テナガ」と呼んで、特別扱いしていた。その時はまさか食べられるものだとは知らなかったので、数週間飼っていると最後は死んでしまっていた。いなくなるとまたほしくなって捕まえる。そのことの繰り返しでいったい何匹天国へ送ったのだろう。

お酒を飲むようになって居酒屋に行くようになった。そこには必ず「川エビのから揚げ」というメニューがあった。初めてこれを頼んだ時に水元の「テナガ」が出て来たと思った。もちろんおいしく頂いたのだが、あのテナガがこんなにおいしいとは思いもしなかった。

子供の時のテナガは一年中いつでも捕れたように記憶していたが、実は春から秋にかけてが漁期のようだ。さすがに元気だったあのころも、冬は寒くて釣りや魚捕りはしていなったのだろう。どうも勘違いしていたようだ。

今、水元では手長エビはほとんど捕れないらしい。江戸川などの大きめの川の方が良い。特にテトラや岩などの隠れ場所のあるところが良いようだ。道理であの取水塔下のテトラ帯に大勢人がいたわけだ。

私もトライしてみようと思った。

仕掛けはいつものセットに3号玉ウキを付けて、板オモリは付けずにスナップサルカンの重みだけで沈ませ、ハリは極小の4号のエビバリをつけたものだ。餌は赤虫にした。サシ餌と呼ばれるハエの幼虫も選択肢にはあったが、最後に丸ごとから揚げにして食べることを考えると赤虫の方がましだった。エビは餌を呑み込まずに体液を吸うだけらしい。しかもすぐに取り込めば餌はそのままなのであまり気にする必要はないのだが、やっぱり気になった。

その日は梅雨の中日でまるで夏だった。エビは夜行性なのであまりよくはない。小雨交じりの曇り空が一番だ。周りにはテナガ狙いの釣り人が数十人もいる。先客に釣果をうかがうと2時間で10匹くらいだということ。ビールのおつまみには十分だ。釣れるのがわかってがぜん張り切って釣り始めた。

ところが、アタリは結構あるが、なかなか釣り上がらない。釣れたかと思うと食べられないダボハゼか極小ハゼだ。1時間ほどしてついに手長エビのアタリが来た。少しずつ流れていたウキが止まったかなと思うと少し沈む。何度か軽く沈んでからグググと一気に沈んだ。竿を立てると結構な引きがあった。

が、上がって来たのはメスだった。メスはあの大きなハサミがない。釣味、食味とも変わりはないのだが、手長エビは何と言ってもあのハサミがあってこそだ。オスをゲットしなければ。

1匹釣りあげて何となくコツをつかんだ。テトラの穴の暗い部分に底近くに餌がつく程度にタナ取りして、流れの上手から徐々に餌を流す。そこにエビがいれば必ずと言っていいほどにアタリがある。あせってはいけない。完全にウキが沈む込むまで待 って一気に竿を立てる。これでだいたい成功だ。

次に来たのはオスだった。ハサミを伸ばすと15cmはある大物だった。頭の中にはこいつのカラ揚げ姿が浮かんだ。

結局3時間で8匹のオスメス混じりの釣果だった。ひとりでビールのつまみにするにはちょうどいい量だろう。

ところが帰ってからカラ揚げにしてビールを飲もうとしたら、食べる前に下の息子が寄ってきて5匹ほど食べられた。これじゃ足りないと再度トライすることにした。

夏の定番、ビールと手長エビのカラ揚げ

すっかり日は暮れていたので、ヘッドライトをして取水塔に向かった。このときは別の道具を用意した。お魚キラーとタモアミだ。お魚キラーはカニマンションの縮小版といったもので主に小型の魚を捕らえるアミかごだ。直方体ののアミかごに丸い穴が開いていて、一度は入ったら出られない構造になっている。この中に餌を仕込んで誘い込む。一度足を踏み入れたら出られないお魚版アリ地獄だ。

私はこの網に自宅の冷蔵庫にあったお魚ソーセージや、はんぺん、パン屑、昼間の残りの赤虫など適当にぶち込んで、テトラの穴に入れておいた。

お魚キラーは最後に引き上げることにして、タモアミでエビをすくうことにした。もとはといえば、こちらの方がキャリア40年の本職だ。子供ころエビといえばタモアミですくうか、四手網という大きな網に追い込んで捕るものだった。初心に帰るというやつだ。

お魚キラー

エビの目は光を受けるとピンクに光る。何であんな色になるのか不思議だ。弱い光なのだが簡単に見つけられる。周りを見回すとうウジャウジャいるのがわかった。

こんなにいるのなら簡単に捕まえられると思ってはいけない。エビは形からは想像もできないくらい素早い。エビは後ろ向きに逃げるので、真正面からアプローチしてはもちろんダメだが、後ろや横からでもすぐ方向を変えて逃げてしまう。捕まえるにはアミをエビのお尻の方向に置いておいて、エビの前方から脅してやるしかない。それもあっという間に追い詰めないと、横から素早く逃げてしまう。何回か失敗してやっと捕まえることができた。コツがつかめればこちらもものだ。はじめは成功率20%くらいだったが、最後は50%くらいにあがった。すでにバケツはエビでいっぱいになっていた。20匹はいるだろう。

もう十分だった。最後にお魚キラーを上げて帰ることにした。

上げてびっくりした。エビはもちろん、見たこともない魚も何匹か入っている。エビは10匹以上入っていただろう。結局全部で30匹以上になってしまった。多過ぎたかなとも思ったが結局家族で全部食べてしまった。取れたての手長エビのから揚げはうまい。居酒屋のとは比べモノのならないものだ。

ちなみにお魚キラーに入っていた別の魚はよくわからなかったので、放してしまったが、後で調べるとブルーギルとアメリカナマズの幼魚だった。特定外来種だ。本来なら川に戻してはいけない。

江戸川にもそんなものが多くなってきたのだ。

今回のポイント

今回は金町浄水場取水塔下テトラ帯で獲った。

対岸の北総線鉄橋下のテトラ帯や葛飾橋下の敷石帯でもよく釣れる。テナガエビは首都圏の川ならはどこでも生息している。近所の川や池で探してみてほしい。テトラ帯や岩場、葦原帯など障害物のある場所を好む。

手長エビの釣り方

最近人気の釣りである。私の家の近所でも梅雨時に手長エビを狙う人が多くなってきた。手長エビは臆病な海老だ。あまり昼間には表に出てこない。昼間狙うのであれば曇った日か小雨の日だろう。ちょうどそんな日が多い梅雨時によく釣れる。アタリは小さな体からは想像が出来ないほど強烈だ。そんな引きも手長エビファンにはたまらないのだろう。 餌はエビの小さな口に合わせるように赤虫やサシなども小さめに付ける。ウキも3号程度の小さいものを使い、微妙なアタリが分かるようにする。エサが底に着くようにタナを取り、仕掛けをゆっくり流しながらアタリを待つ。はじめのウキの微妙なアタリではアワセず、ゆっくりと十分に食わせた後にアワセる。

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